Kan-Kan の雑記帳


2004年1月31日

 琵琶湖は北上を続けており、100万年後には日本海と繋がってしまうそうです。心配になって湖岸に住む友人に電話しました。笑っておりました。

 「しっかりと飯を食わせて陽に当てし布団にくるみて寝かす仕合わせ」河野裕子さん。もういちど子育てをしてみたい。孫がほしいなあ!あ、また、独身の息子に叱られそうです。まあ、「子はあってよし、なくてよし」とはいいますね。

 それにしても、子供虐待のニュースが無い日はなし。先日、度重なる父親の虐待を受けて救急母子センターに避難した生徒が、携帯が使えない(当然ですよね)からという理由で出てきてしまったと聞いて、暗澹たる思いです。

最近読んだ本

「バラと痛恨の日々」 有馬稲子自伝

 美しく、才能豊かで、でもまっすぐで、不器用で・・このような人があちこちぶつからないわけがない。予想通りの波乱に満ちた人生を、正直に振り返る。美女揃いの歴代タカラヅカ娘役の中でも1、2を競う美しい人と言われますが、本人は入団してすぐ女性のみの集団タカラヅカ独特の演技に違和感を感じ、やがて退団して、たくさん映画に出演しつつ、商業演劇の舞台に立ちつつ、新劇にも参加したりして、「一流」の演技者を目指します。家庭に恵まれなかったので、よけいあたたかい家庭を望みつつ、それが常に叶えられない巡り合わせの皮肉。「はなれご女おりん」という代表作を得て、汚れ役を演じても、はなやかさを失わないのがこの人の持ち味かなあ。同じように歩んだ、音羽信子との対比を思います。

「摂」  皆川博子

 舞台に造詣の深い作家が、世界的舞台芸術家である朝倉摂を語る本。それにしても、摂の幅広い活動(舞台だけでなく映像、そしてイラスト。デザイナー、衣装・・・)、その量と質、バイタリティに圧倒されます。後ろを見ないその生き方も素敵です。

「シネマ免許皆伝」  瀬戸川猛資

 サンデー毎日の連載シネマエッセイ。題名が気に入らない(作者もそう書いている)けど、内容は充実。文章の歯切れがいいこと。それに知らないことは知らないから、この本は読んでいないから、この映画についてはここまでしか語れませんという姿勢が好ましい。「知ったかぶり」はしない、それって大事ですね。

「砂の器」 松本清張

 テレビドラマ化を機に20年数年ぶりに読み返してみました。短編小説だったと思っていたら、意外と長いのです。長編の中身の濃い映画になった印象からかもしれません。映画は原作に劣らない映像化に成功した数少ない例だと思います。テレビは病苦と病気によって差別された親子の放浪というテーマを変えているらしいのですが、どうするのでしょう?映画のラストでの演奏会の「宿命」のピアノコンチェルト(映画オリジナルの名曲)はさすらう親子の映像と相まって、すばらしいものでしたが・・・。

「涙」 乃南アサ

 最新のベストセラーのひとつ。本屋で平積みになっていました。文庫本で上下巻。オリンピック直前、昭和39年の東京から現在にいたる1人の女性の波乱の人生を縦糸に、サスペンス仕立てで重層的な人間ドラマが繰り広げられる。結婚直前に、殺人事件と共に、被疑者のまま姿を消した刑事の婚約者であるヒロインの心の変遷を丁寧に描く。作者の力量は確かで、上巻がめちゃ面白く、舞台も熱海、大阪、田川、宮古島と移り、周囲の人間も魅力的に造型されていているのだけれど、、後半、一気に走りすぎてトーンダウンしたのが残念。事件の主犯が最後まで姿を見せず、「アリバイ崩し」もエピローグでさらっと語るだけというのはカタルシスに欠けます。最後のヒロインの元婚約者のあり方も「スタンドバイミー」を連想してしまいました。

往く人来る人

アン・ミラー  肺ガン 81才

 ミュージカル・ダンサー。浅黒く引き締まった体で見事なタップを見せてくれました。ミュージカル映画の全盛期に咲いた花でした。

石浜恒夫さん 肺ガン 80才

 川端康成の弟子というより、作詞家としてなつかしい名前です。こいさんのラブコールは私のカラオケの定番。硝子のジョニーは好きな歌だけど、豊かな声量が必要なのでパスしてます。やはり大阪ご出身だったのですね。

ヘルムート・ニュートン 交通事故 83才

 女性写真、それもソフトフォーカスのヌードに独特の風情がありました。ホテルを出て、壁に激突。交通事故とは痛ましい。80過ぎたら運転は控えなきゃと思いました。

2004年1月29日

 言葉でわかってもらう為の努力をどれくらいできるか。エリート教育の象徴,仏国立行政学院(ENA)の入学試験には一般教養の口頭試問があるそうです。ヨーグルトの作り方は?とか19世紀の馬車はどうだった?とか、バラエティに富んだ問いが繰り出される。

 はじめて入学した女性、フランソワーズ・シャンデルナゴール(政治家・小説家)は「夫と愛人の違いを述べよ」と問われ、「夫は昼、愛人は夜のようなもの」と答えて合格したという伝説も。「沈黙は金」の時代は過ぎて、いかにきちんと相手に伝えるかが問われる時代ですね。

平成15年「顔見世」昼の部第3幕

「京鹿子娘道成寺」(きょうかのこむすめどうじょうじ)

 これが目的の客が多い。補助椅子まで出て、昼食後なのに、席に就くのが皆早い。お目当てはもちろん坂東玉三郎。

 20名を超す所化(しょけ)、坊主に導かれるように現れる金烏帽子(きんえぼし)美しいの白拍子。曲は義太夫にはじまり、長唄へ。「花の他には松ばかり…」「鐘に恨みは数々ござる…」名曲に乗せて伝説の清姫、実は当時の観客である江戸の町娘の恋の哀歓を綴る。50分を超す女形の大曲をあでやかに凄艶に踊りぬく。

 たくさんの女形の道成寺を見てきましたが、美しさ、技術の面ではもちろん、抜きんでているのはそれに裏打ちされた自信です。彼は迷うことなく、媚びることなく、恐れることなく、もう強引に観客を自分の世界に引きずり込みます。客は翻弄されっぱなし。衣装も次々変えて、美しさを更に強調、そして踊りながら目つきはさらに鋭くなって、蛇性を発揮するまでの流れも自然です。

 舞終わる頃は客はすべて彼の虜。もう、参りましたの一幕でした。

2004年1月17日

最近印象に残った言葉

 「皆が完走を考えて力を温存していては勝てない。暴走するやつが欲しかった。」1950年箱根駅伝、「花の二区」に練習タイムがチームビリから二番目の篠田選手(後の篠田正浩監督)を抜擢した中村清コーチの言葉。篠田選手は二人を抜き、三位でたすきを渡す。

 「自分を信じ抜いた者だけがその重圧をはねのけ、暴走と紙一重のところで練習以上の未知の自分に出会えるのだろう」ー新聞のコラムより。今年の「箱根」も見応えありました。

往く人来る人

都筑道夫さん

 昨年11月ハワイで死去。心臓麻痺、74才。ミステリーの翻訳、紹介、編集長としても有名ですが、やはり推理小説作家として素敵な人でした。個人的には「なめくじ長屋捕り物さわぎ」が好きだったなあ。軽妙でおしゃれな感じの人のように思います。自伝エッセー「推理作家の出来るまで」を読んでみたい。

イングリット・チューリンさん

 スウェーデンの女優。ガンで。74才。母国の名監督、ベルイマンの映画の常連で、「野いちご」や「沈黙」が代表作といわれますが、外国作品、特にイタリア映画で光ったように思います。「テオレマ」の上流婦人、「地獄に堕ちた勇者たち」の息子に裏切られる富豪婦人などは強い印象。クールで意志的な立派な顔立ち、姿勢。大芝居の出来る、存在感のある見事な女優さんでした。

相川浩さん

 元NHKアナウンサー。肝不全。70才。「紅白歌合戦」の総合司会、「想い出のメロディー」の司会。「おていちゃん」のナレーション。柔らかな語り口と笑顔は親しみ深いものでした。でも、ぎょうさんお酒飲んではったんやろか?

平成15年「顔見世」

昼の部 第2幕  「傾城反魂香」(けいせいはんごんこう)

 近松の作品ですが好きなものではありません。絵師で師匠の土佐将監にも見捨てられた吃音の又平(通称「ども又」)が、死を覚悟して、最後に描いた自画像で奇跡を起す。夫の又平に代わってしゃべりまくる女房「おとく」との夫婦愛もポイントなのですが、又平を病気休演の猿之助に代わって中村かん雀、おとくを父親の雁治郎という配役。

 かん雀の力演もありましたが、やはり雁治郎が細部まで行き届いた見事な演技で観客を引きつけ、笑わせ、泣かせ、一気に劇場のムードを盛り上げました。流石の人間国宝。籐十郎襲名は再来年ですが、去年は舞子はんと浮き名を流し、ますますお盛んなことは同慶の至り。70代なのになあ。 

2004年1月15日

 偶然、13日放映のMBSのニュース番組「VOICE」の特集を見て、涙しました。「ネパールに眠る娘へ」。神戸市長田区出身の女性美術家の短い生涯とその母の記録です。

 震災で瓦礫の下から救い出され、ボランティアに目覚めて、ネパールに渡り、パタン市の貧困地区の小学校で美術を教えていた佐野由美さんは、1998年、帰国を6日後に控えた日、暴走してきたトラックにはねられて23才の命を落とす。

 5年後、由美さんの母、京子さんはその小学校を訪れる・・・。

 見た後、気になって、問い合わせました。なんと、知り合いのMBSのカメラマンが、このドキュメントにも噛んでいて、生前の彼女にお会いしたこともあるそうなのです。

 中国で学びつつ、農村部の小学校でボランティアをしていた私の姪も、同じ1998年、同じ23才でかの地で事故死しました。その遺志を継いで、中国の農村部の小学校へ図書を送るささやかな活動を続けてきました。そして、私は転勤した高校でネパールの小学校への援助活動を続けている人たちと巡り逢う。そして佐野さん・・・。

 確かな縁(えにし)を感じます。新たな活動の意欲が湧いてきました。

2004年1月12日 その2

 あたたかな成人の日の昼下がり。図書館に自転車で向かう途中、自動販売機の前に人だかりが。4,5人の若者に囲まれた中で、ひとりの警官がなにやら取り調べをしている。若者達は一応従順にポケット中のものなど出していたけど、ふてくされている様子の者もいたので、事情はわからないけど、警官が心配になって(ひとりで対応してはいけないですよね)しばらく近くに立って見ていました。長年の生活指導慣れして、一種の習慣病かも知れませんね(苦笑)。

 故郷の海にクジラが・・・。隣町(大西町)の海水浴場に迷い込んだクジラが浜に打ち上げられたらしい。たくさんの人が出て大騒ぎで、水を掛けつつ沖まで曳航(?)して逃がしてやったらしいけど、クジラが去った後、テレビに映し出された映像は波もないおだやかな懐かしい瀬戸内の海でした。

往く人来る人

 年末年始、多くの人の出入り(?)あったので、駆け足で。

 風間完さん、独特の線と人物。彼の挿画はすぐにこの人のものと知れました。「青春の門」などもなつかしい。中村喜春さん、元新橋芸者でニューヨーク在住、90才。この人の著作は面白かった。和田弘さん、不整脈、72才。ハワイアンと歌謡曲の不思議な融合。ムード歌謡というのですか、好きじゃないけど、耳に付いて離れない歌ってありますよね。

 新しい星、国見高校の平山クン。将来の日本サッカーを背負うのでしょうか。でも、もっと明るさがほしい。

新春の美術展

1月5日(月) 新春彫刻展 マサゴ画廊  例によってオープニングパーティへも出席。とっておきの事件あり。いずれあらためて。
1月8日(木) 机の上と壁の小さなアート展 茶屋町画廊 例年を上回る、バラエティに富んだ作品群で感動。
1月12日(月) ゆう墨会書展 藤井寺市民ギャラリー 友人の作品「百花春到為誰開」は、新春にふさわしい薄い墨で表装はチャイナドレスの鮮やかな赤の布地でした。「さくら」や「見上げてごらん夜の星を」など流行を反映した作品多し。

奈良へ行くなら

 11日、「若草山の山焼き」に嫁ハンと出かける。9年ぶり。前回は雨の後で燃えが悪かったけど(おまけに翌朝は大震災で山焼きの印象もぶっ飛び、嫁ハンは見に行ったことも憶えていない)、今年はススキの伸びも乾き具合も最高と聞いて、まずは近鉄に飛び乗る。

 近鉄奈良から歩いて、若草山の山裾まで一気に行き着き、寒い中、持参のおでんを食べながら、時刻を待つ。5時50分、花火が冬空にきれいに開いて音も迫力十分。6時、火が一斉に放たれて、さあっと山肌を舐めるように火が走る。ばちばちと燃える音。もっと燃え上がるのかと思っていたけど、考えてみれば木じゃないのだからすぐに燃え尽きるのは当然の話。露出を続けた写真のようにはいかないのですね。

 でも、山から遠ざかりながら眺めた、灯りやネオンを消した奈良の町の上に徐々に燃え広がって行く山の姿は独特の趣あり。火は人をたかぶらせる力があるようです。バスに飛び乗って、今度はJR奈良から大和路線で帰宅。奈良から家まで45分でした。 

2004年1月12日 その1

 成人式の混乱は毎年苦々しい思いで見聞きしています。憂えつつ煽るような、自分たちを傍観者とみなし、批判者に徹するようなマスコミの報道の仕方にも疑問を感じます。教育は家庭、学校、社会それぞれに責任があるなずなのに…。

正月は日本酒

 地元、羽曳野の醸造元(近つ飛鳥)が昨秋、廃業して、残った一番近場の酒、「松花鶴」(しょうかづる)。藤井寺の観音さんの門前に立派な蔵を構えています。でも、地道に、手を拡げず、がんばっておられる。吟醸も造っているが、ワンカップもあるのがいい。ちょっと甘いけど、すっきりしています。

 新年会の仕上げは、いつも友人宅で「越の寒梅」を頂くことになっているのです。そこのひとり娘さんの嫁ぎ先から年末に送られてくる

ものを悪友たちがあてにして集まって、あっという間に飲み干すわけです。今年は燗係がぼやっとしていて、1,2合、熱過ぎて損をした気分になりましたが、それでもさすがに切れ味がいい。ひやでも燗してもそれぞれ味がいいというのが銘酒の中の銘酒といわれる所以でしょう。でも、近年はこれを上回る酒もどんどん出てきている(普及してきている)のがうれしい。醸造元には今こそ頑張って欲しい。日本酒は焼酎に押されて、全般的には尻すぼみの状況でもあるのです。

最近読んだ本

「わが愛の讃歌」エディット・ピアフ自伝

 「私はまもなく死ぬだろう。その前に自分自身の言葉で私のことを語っておきたい。」そして、語り終えた直後に47歳の若さで亡くなる。でも、もう老婆のような体だった。彼女の残した言葉「ジュ・ヌ・ルグレット・リアン」(私は後悔しない)。大道芸人の子どもとして生まれ、母と別れ、10代で出産した娘と死別、殺人容疑で逮捕、麻薬、アルコールそれぞれに中毒になり闘病、復活。たくさん(!)の男性遍歴、ボクサーの世界チャンピオンだったマルセル・セルダンとの愛と死別…まあ、本人は「人の2倍」と言っているが4.5倍は生きている。47歳で27歳の歌手と最後の結婚、その直後の死。なにより歌に賭けるすざまじい執念が彼女を貫くのですが、波乱に富みすぎて、それも病床での口述ということもあってか、率直に暗い部分が強調して語られているのが迫力はあるがちょっと残念。栄光の部分、シャンソン歌手として世界から愛され、初めてカーネギーホールで大成功を納めたことにすら触れていないのです。葬儀には4万のパリ市民が参列したそうです。

「わが心に歌えば」久世光彦

 待ってました。名テレビディレクターにして作家、なにより読書人。この人のこんな映画論が読みたかった。その感性に共感するところ大。取り上げている映画も納得のゆく作品ばかり。

 たとえば「レベッカ」で、ヒロインの名前がない(「レベッカ」は亡くなった夫の先妻の名前)などというところは、はたと膝をうつ。そうだ、名前が出たら、邪魔なのだ。登場しないレベッカの存在感こそがあの映画のテーマだったのですから…。

 「美女ありき」を見ていないのが悔やまれる。2世紀(18世紀から19世紀)に渡るキッスなんて、ロマンやなあ。原題の「レディ・ハミルトン」を「美女ありき」と訳した、かつての映画配給社のセンスもいいけど、ビビアン・リー主演だったからこそでしょうね。

2004年1月4日

映画ダイスキ

 インターネットで応募したら当たった映画「ミシェル・ヴァイヨン」。嫁ハンと正月2日に行ってきました。阪急3番街シネマ。全席指定、入れ替え制、深紅のイスもゆったり、前の人の頭が邪魔にならないように一列ずつずれている立派な映画館。でも客は10人余り。人気監督リュック・ベンソンの最新作なのにこの寂しさ。「グラン・ブルー」「レオン」などの映像作家の新作が、フランスの人気コミックの映画化で、しかも今常識のSFXを使わないということで、配給会社も戸惑い、売り方がわからなかったのかも知れません。

 さて、作品は肩の力が抜けて、面白いできあがりです。SFXなど使わなくても、心ときめかせる映像は創り出せる、そんな監督の自信があふれています。フランスのF1チームのエース、ミシェル・ヴァイヨンは宿敵「リーダー」チームの汚い妨害を受けつつ、仲間と共に「ル・マン」優勝を目指すーというわかりやすいお話。それをスピード感溢れる空中撮影とクレーン、ハンディカメラを多用した映像で描く。迫力十分。海辺の断崖に佇む人からカメラが海側に引いて、下がって、海上すれすれに遠ざかってゆくシーンなどワクワクするカメラワークです。ドラマとしては美男美女が揃っているので、人物がわかりにくい。もっといえば、主演のミシェル・バイヨン役の俳優が目立たない、ここはとびきりの男前か長身がほしい。しかし、流麗なフランス語の洪水も耳に快く、ものすごいエンジン音との併存も違和感がありません。

 名作でも大作でも、深く心に残る作品でもない。でも、こんなに気持ちよく、映像に酔える作品があってもいいのですね。

こんな味

 友人からもらった「干くちこ」。糸ほどしかないナマコの卵巣を重ねて陰干したもの。真冬の能登、七尾湾でわずかしかとれないとか。「香ばしい」のひとこと。日本酒にめちゃ合います。ほんのひとかけらだったけど、かなりお酒はすすみました(いつもだけど)。

お酒も好き

「梅錦」 上撰 栄冠

 故郷、愛媛の酒というより、西日本を代表する銘酒。ファンには通称「黒ラベル」の「純米酒」が人気ですが、私は燗しやすいこちらがお気に入り。瀬戸内の魚に合うように、細やかな、やさしい舌触り、のどごしに仕上がっています。

2004年1月3日

 小津安二郎の生誕100年を記念して、様々のイベントが行われた2003年でした。春の「秋刀魚の味」に続いてリメークされ、12月にテレビで映像化された「晩春」は、演出の市川こん監督の力量もあって、優れた出来映えでした。オリジナルで原節子が演じた役に扮した鈴木京香も美しく、父親役の長塚京三はちょっと若いけど、好演。仲村トオル、緒川たまき、藤村志保(最近大活躍)らの脇役も、単調で深い小津調のセリフをうまくこなして、父娘の深い愛のドラマを盛り上げていました。

 正月の「小津映画のヒロインインタビュー」という番組で、岡田茉莉子が興味ある発言をしていました。出演した映画で監督に、この映画の4番バッターはだれですかという岡田の問いに、即座に、杉村春子の名前を挙げたという。原節子でも、笠智衆でもない・・・。私は?と問うと、トップバッターだよと答えたらしい。なるほど。小津映画を支えていたのは杉村春子の存在感と演技力だったのだ・・・。こんな新しい見方の発見があるから、映画フリークはやめられません。

 盆と正月の恒例、向田邦子ドラマも、ネタ切れ、マンネリと思いつつ、見てしまいます。しかし、今回は意表を衝いて向田邦子の妹の書いたエッセイを元にした、向田邦子の秘めた恋をテーマにした実名入りのドラマ「恋文」。常連の田中裕子に代えて、ほんと久しぶりの山口智子が主演、しなやかな演技を見せ、向田邦子という魅力的な女性像を具象化しました。加藤治子や小林薫は引いて、その代わり、希木樹林や森繁久弥、藤村志保らが脇をがっちり堅め、起伏の少ないタドラマを引き締めました。岸本加世子が汚れ役をうれしそうに演じていたのもいい。2時間余があっという間のドラマでした。それにしても自分の恋を、死後20年近く、家族にまで隠し通した向田さんの秘めたパワーに感服しました。 

2004年1月1日

 実に久しぶりに我が家で過ごす正月です。好天に恵まれ、門先で初日を拝むことも出来ました。これまでは嫁ハンの実家(かつては和歌山、今は羽曳野)と、私の実家(四国)に交互に帰省、滞在する年月を重ねてきたのです。

 ホテルマンを目指して東京のホテルで修行中の長男は、もう正月に帰って来ることはないでしょう。時折、今日はオノ・ヨーコさんが、今日はラムズフェルドさんが来たとか電話が入るーこれこれホテルマンは客の情報を漏らしたらあかんでと注意しつつ、で、どうやった?とミーハーしてしまうアホな親ですーだけで、当分3人の正月が続きそう。しかし、考えれば、夫婦併せて4人の親が老齢ながら健在なことはうれしいことです。

 実は年末に、祖父母8人の内、1人残っていた、嫁ハンの母方の祖母が101才で死去しました。でも、この場合は老衰で、年齢に不足もなく、みんな気持ちよく送ることができたので、松飾りこそしなかったけれど、賀状もそのまま続けて書いて、こちらも正月を朝から酒を飲んで祝ったという次第です。

 符丁の遇いすぎた2003年、仕上げは火傷でした。夏の帰省でマッチの暴発で左手薬指を火傷したので・・・。この冬の帰省時は餅つきの一臼目に、搗き上がった餅を取ろうとして、餅に指を突っ込んでしまい、右手薬指に火ぶくれ。めちゃ痛かったけど、もう笑うしかありません。もちろんアロエで翌日には回復しました。

 朝から酒を飲んで、年賀状の整理、返事をしつつ、テレビでタカラヅカ、カブキを眺めて、夜はウイーンフィルのニュイヤーコンサート。今年の指揮はリッカルド・ムーティ。ダイナミックです。ステージでもシャンパンを飲んでいる。こちらもお酒はいっぱいあるし、なんて優雅な正月なんだろう。きっとばちが当たるデなどと心配しつつ、「ラデツキー行進曲」と共に元日も暮れて行きます。
タカラヅカ・フォーエバー

 元日のお楽しみは恒例のタカラヅカ歌劇の中継(他の初芝居は普通2日が初日)。今年は花組のレビュー「カタラヅカ・アプローズ」を大劇場から。でも、前半は初日でNHKの全国生中継という緊張感からか、ダンスのきれが悪く、あれと思う出来映え。ラインダンスも珍しく乱れている。振り付けそのものが硬い。こちらも「ダンスの花組」という先入観と期待があるから、なおさらまずい。トップスターの春野寿美礼さんが歌がうまいというのもこの場合は逆効果かも。後半、持ち直したけど、いまいちの舞台でした。春野さんは素敵でしたけど・・・。夜のNHKのバラエティに出ていた「(芝居の)雪組」のダンスの方が、イキがいいというのも皮肉な話でした。

最近読んだ本

「凄絶な生還ーうつ病になってよかったー父子2代にわたる死の衝動に克った僕」
 マキノ出版   竹脇無我


「今は、ゆっくり休んだほうがいいよ。それは無責任な態度ではなく、逆に病気をきちんと治そうとする責任ある態度なんだよ」

 励ましてはいけない。そっと見守ること。それを学びました。おとう様は元NHKの名アナウンサー。筆者自身がその年齢の、その命日を超えるのが大変だったそうです。でも、個人的には、お父さんの死の直後、病気で死んだすぐ上のお兄さんのことが、こだわりになっていたのではと思います。それにしても8年間の闘病からよく還って来ました。

お酒も好き

「ささのつゆ」 能登輪島 純米吟醸  日吉酒造店

 さっぱりしておいしい。甘みがあるのに、しつこくない。友人の旅行のお土産。「加賀屋」に泊まったらしい。うらやましい。

「土佐鶴」 本醸辛口  土佐鶴酒造

 燗をしたらさすがにおいしい。だれかが持ってきてくれたらしい(笑)。

「沖縄浪漫」1983年

 義兄の沖縄土産。泡盛の古酒はさすがにまったりした味わい。でも、匂いも味もきつくて、ロックの嫁ハンは途中でリアイア。お湯割りの私はなんとか半分まで。ちょうど、マグロを届けてくれた友人に残りを託す。





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